タバコがなぜ悪なのかを科学的な視点をふまえて絵本化してみた

 

アレルギー患者とは、人類のなかでも優れて敏感なセンサーをもつ人たちのことだと思う。彼らのおかげで、環境に危険が差し掛かってきたことを周囲はいち早く気づくことができるのである。ダーウィニズムの観点からすれば、センサーの鈍い豪傑ぞろいの部族は、敏感なセンサーをもつ病弱者を抱える部族よりも滅びやすいはずである。そういう意味からも、人の多様性のある国こそが真にタフなのだ、と言うことができる。

喫煙を制限する法制化が進むのは、アレルギー患者とその潜在者たちの一般よりも敏感なセンサーが、タバコの煙に対して異常を示すアラートを鳴らしているからではないかと思う時がある。都市部では特に、空気を浄化する樹木や土の地面が激減しており、粉塵や煤煙、細菌やウィルスがコンクリートアスファルトの間で絶えずかき回されている。人工林の放置による花粉の飛散は春の風景をすっかり変えてしまった。現代に詠まれる俳句でマスクとくれば、それは春の季語に違いない。さらに、空気や農作物には「ただちに健康には害のない程度の」放射性物質が含まれるようになり、最近では、水や食塩にもマイクロプラスティックが混ざっていることが明らかになった。環境の汚染が人体の許容量を超えようとしているようなこの時代に、街角や飲食店や職場で、追い討ちのようにタバコの悪臭が漂ってくる。このことへの多くの人々の身体的な反発が、タバコの規制を後押ししていると僕は考える。

タバコの煙が悪臭であることは、その主成分がアンモニアホルムアルデヒドであることから明確である。臭いが悪いだけでなく、タバコが有毒らしいということは、実は喫煙者も経験的にうすうす知っているはずだ。喫煙行為は、手始めにおいてかなり無理してその「不味さ」に慣れなければならない。不味さを我慢して吸い続けるうちに中毒になり、中毒ゆえに禁断症状が出るようになり、それを和らげるために喫煙するという循環が生まれる。よく言われるように、タバコはストレス解消に実質的に役立ってはいない。なぜなら、喫煙習慣がストレス源そのものだからだ。そもそも、喫煙者がなぜこのような自分自身に対して不正直な行為に取り組んだのかと言えば、それはひとえに見栄や格好つけのためである。この点において、映画産業の果たした役割は非常に大きいし、残念ながら今もなお大きい。

見栄や格好つけの誘惑の罠に、子供たちが将来陥らないようにするにはどうしたらいいだろう、と僕は考えた。そのためには、タバコを趣味嗜好の話ではなく、科学の話として語ればいいのではないか。タバコがなぜ有毒なのか、なぜ他人を傷つける可能性があるのかを科学的に理解できれば、タバコとは距離を置くようになるのではないか。子供はたいていの大人よりもずっと賢い。そのうえ、子供はすぐに大人になる。いま5歳の子がタバコの害を理解して、タバコを吸わない成人になるのにたった13年である。13年で世界が変われば素晴らしい。新しい世代の喫煙比率を下げることが、世の禁煙化を推し進めるための最善の策になるのは間違いない。

道路に、視覚障害者のためのブロックが敷かれていたり、車椅子のためのスロープがあるのは、弱者に配慮する良識に基づいている。弱者に配慮することは、自分が弱者になったときの世界を担保することにもつながる。対して多くの喫煙行為には、アレルギーだったり体質が弱かったり疾患のある者に、不利益を「我慢しろ」というパワハラめいた考えが潜んでいる。しかし、我慢をしなければならないのはどちらなのだろう。我慢できない、というのがタバコの異常さである。そしてひとたび誰かが喫煙すれば、平均以下の室内であればすみずみまで、屋外であれば風下約30メートルまでその害は拡散される。1人でも非常に広範囲を汚染しうるのがタバコの特徴である。そして、その毒が他人の遺伝子にどう作用するのかは絵本(かがくせんたい・ぴーこさん)に描いた通りである。

私たちは空気を共有している。空気を体内に取り入れて、内臓や血液を動かしている。空気は栄養価のない、しかし必須な「食べ物」であるとも言える。空気を汚さないように考えるのは、飲料水を汚さないようにするのと同じく自然なことだ。未来には、その価値観がすっかり行き渡っていると期待したい。僕は、タバコのない未来から現代を見つめることが必要だと考え、物語の締めくくりとした。未来から現代を見つめたとき、現代の事情を鑑みて、悪徳に同情的になる必要はない。そういう感情移入は、退行にしかならない。常に未来の倫理観で現代を照らせばいい(これは、過去と現在の関係についても同じことが言える。過去の倫理観にシンクロすることは現在を退行させる働きがある)。

世界はどう変わっていくべきなのか。私たちはどう変わるべきなのか。鍵を握っているのはいつも子供たちである。

 

 

☆絵本はApple Booksでも無料公開しています。

https://books.apple.com/us/book/id1479680397

 

絵本の制作にあたっては『2100年の科学ライフ』(ミチオ・カク著、斎藤隆央訳)から大きな教示を得ました。なお、遺伝子の働きを擬人化するにあたって科学的に不正確な箇所がありましたら、それは僕の理解力不足や表現力不足に起因するものであり、参考文献の瑕疵ではありません。

この作品を印刷・出版・各種媒体を用いた流布・記事化等をしていただける、個人・団体・企業・教育機関・メディア様を募集しています。プロフィール内にある連絡先にメールしてください。なお、僕の職業はフリーランスのグラフィックデザイナーであり、科学や医療に関する専門家ではありません。

 

※2022年4月1日より成年年齢は20歳から18歳に変わる。