赤十字ポスターは環境型セクハラか 〜宇崎ちゃんとラムちゃんとの比較を通して考えてみる

 

日本赤十字社献血ポスターのイラストがTwitterで議論になっている。

これは『宇崎ちゃんは遊びたい』という漫画のキャラクターを献血ポスターに使用したもので、一見して明らかに胸の大きさを強調した描かれ方がされている。ちなみに強調された胸はその全体が服で覆われていて、肌の露出はない。

妻にこの問題を知らされ(見せられ)、僕は初めて『宇崎ちゃん』を知ったのだが、印象としては「またこの手のエロか。しかもこれで献血を促すって、日本は病んでるな」というものだ。

僕はオタク界に暗く、美少女キャラや萌えキャラなどの二次元表現の女性にまるで興味がない。こうして書いていても、本当にそんな単語だったかな、とGoogle検索をかける始末である。Twitterではこうした少女キャラを利用した漫画やゲームの広告が、頻繁にタイムラインに流れるのでミュートするのに忙しい。僕の宇崎ちゃんイラストの第一印象には、これら似た系統のタッチに頻繁に見られる露骨なエロによる刷り込みが影響している。

そんな僕が、くだんのポスターが環境型セクハラだという意見にうなずくのはもっともなのだが、ちょっと引っかかった。じゃあ、献血に耳目を集めるためにどのような女性キャラだったら問題ないのか。最初に思いついたのが『うる星やつら』の『ラム』ちゃんである。

ラムちゃんなら問題なかったよね」と妻に言うと「まあそうでしょ」と返ってきた。そこで「でもラムちゃん、結構エロいかも。検索してみ?」と言った。スマホを見つめて妻は「うーん」と唸った「改めて見るとラムちゃん、やばいかも」。

ラムちゃんの普段着はビキニである。肌露出の多寡をエロの物差しにすれば、宇崎ちゃんよりもラムちゃんの方が圧倒的にエロなのだ。ラムちゃんには胸の谷間まで描かれているっちゃ。一方で、宇崎ちゃんの胸は服ですっかり覆われてるッス。

自分はなぜラムちゃんをエロだと思わないのか、を突き詰めると、昔漫画を読んでいてラムちゃんの人となりや彼女の強さを知っているからではないかと思い至った。『うる星やつら』に多少のお色気はあっても、明らかに成人漫画ではない。宇崎ちゃんイラストに対して不快感を覚えるのは、作中でどう演じられているかを知らないからではないか。そう考えて、YouTubeでアップされていた作品をびくびくしながら一話、読んでみた。


全然、エロじゃなかった。


一言で説明すれば、これは青春ラブコメである。この作品に馴染んでいた人からすれば、宇崎ちゃんを環境型セクハラ呼ばわりされたらそれは違和感があるだろう。作中で(多少のあざとさはあるにしても)宇崎ちゃんの胸の大きさは外見上の個性でしかなく、相手役の「先輩」は彼女の容姿にまるで無関心なのである。

それで思い出したのだが、僕には大学時代、宇崎ちゃんと同程度と言えるほど胸の大きい女友達がいた。宇崎ちゃんのような容姿の人は架空ではない。例えば、宇崎ちゃんが現実の誰かをモデルとしているとしたらどうだろう。宇崎ちゃんの容姿のみを指して環境型セクハラと糾弾することは危険なのではないか。

僕らはたいてい、映画や小説や漫画の登場人物を「実在している」とみなして、その世界観を楽しむ。『宇崎ちゃんは遊びたい』のファンにとって宇崎ちゃんは、実在に準ずる存在のはずで、その彼女を貶められれば、当然反論したくもなるだろう。彼らにしてみれば、反駁するのは宇崎ちゃんを守る英雄的行為なのだ。

ただ、日本赤十字社は「宇崎ちゃんのどのカットを使用するか」を間違えたように思う。日本赤十字の採用したのは単行本の表紙の絵だが、これは作中の宇崎ちゃんの人となりを代表するカットとは言えない。宇崎ちゃんファン以外の関心を引くために、あえて挑発的なものを選んだのではないか。『宇崎ちゃんは遊びたい』はセクハラ漫画ではないが、日本赤十字社の上層部にセクハラ体質があるのではないかとは疑う。

それと、なぜ単行本にすでに使用された流用イラストなのか。献血にふさわしく新たに描かれるべきだった(看護師の格好をさせろという意味ではない)。給仕の服装であるために、男性目線(サーヴするのは女性の役割という暗喩)で描かれた感が余計に出てしまっている。宇崎ちゃんに敬意を払うのなら、彼女を実在の女性として捉え「どのような服装で献血ルームの前に立ってもらいたいか」を考えるべきだ。新規イラストを発注する経費を惜しんだのだろうが、この雑な進め方からし日本赤十字社の上層部にはパワハラ体質があるのではないかと、さらに疑ってしまう。(これは、ライターとして企業広告のための取材を8年ほどした経験からのクライアント洞察である)

調べてみたところ、数年前に松戸市献血ルームでやはり美少女キャラがポスターに使用されている。こちらは松戸市の公式キャラクター松宮アヤが看護師のコスプレをしているのだが、驚いた。これはこれで宇崎ちゃんの比ではない問題がある。その最たるものは設定年齢で、宇崎ちゃんが20歳で成人なのに対し、松宮アヤは15歳。未成年なのである。にも関わらず、ポスターでは女性として特徴的な体のラインが露骨にくっきりと描かれている。環境型セクハラどころか、チャイルド・セクシャル・アビューズに相当するとされてもおかしくない。また、松宮アヤは単なる市のキャラクターであって、作品によって魂を与えられた存在でもない。

この松戸市での成功体験(?)を踏まえて今回の宇崎ちゃんポスターが制作されたなら、一連の文脈から、宇崎ちゃんポスターには日本赤十字社の上層部による同質の意図があった、と見るのが適当だろう。すなわち、宇崎ちゃん自体はエロでないとしても、そこにエロの要素を読み取り、大衆迎合のために利用しようとした日本赤十字社の意図はあると、僕は考える。

まとめるとこうなる。

宇崎ちゃん:無罪
日本赤十字社の運用:著しく不適切

ところで、Twitter上の「環境型セクハラ」派の意見に、「血が集まればいいというものじゃない」というものがあった。僕は作品の内容を知らずイラストに嫌悪感を抱いていた時から「より多くの血が集まるのなら、この程度は許容するべきか」とも考えていた。もし自分の大切な人や自分自身が事故に遭って献血を待っている、という場面を想像すれば、これを疑う余地はない。

死に瀕しているときに、病院でこんな風に医師に告げられる。
「残念ながら、血液が足りません。献血を集めるには、人気の漫画キャラを使って宣伝する方法があるのですが、そのキャラは女性で胸がとても大きい、という設定なのです。このキャラを使って献血を募ると、環境型セクハラになる恐れがあります」
「は?」
「つまり、女性の権利を損ねる恐れが…」
「それなら、胸を衣服で隠して募ってください」
「胸はすでに衣服で隠れています」
「は?」

血を集めるために、犯罪予備軍を焚きつけるようなことがあってはならない。しかし、どう穿った見方をしても、宇崎ちゃんポスターにそこまでの影響力はないだろう。

全体的に宇崎ちゃんを擁護する、自分ながら意外な考察の結果となった。最後に、宇崎ちゃんファンの肩を持つふりをして「アンチ・環境型セクハラ」派とでもいうべき立場で、ただ攻撃を楽しむだけのサディスティックな層が日本にはある、とは指摘しておきたい。これについては、いずれ別の記事でまとめたい。

 

 

追記:宇崎ちゃんポスターの描かれ方の問題点に「乳袋」なるエロの記号があると後で知った。グラフィックデザイナーでありながら、この乳袋の不自然さにはまるで注意が向かなかった。自分の感性に合わないものは一瞬で分かり、それを隅々まで見るようなことはしないからだ。一般人の多くもこれがエロの記号だと言われてもピンとこないのではないか。記号というよりむしろそれは、オタク界の「暗号」のように思える。

 

 

参照:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191016-00000009-tospoweb-ent

https://www.excite.co.jp/news/article/Otapol_201704_4_40/