父と子

 畸形の子が生まれたので、父親は喜んだ。
「どうだ、この子は。ちょっとした見物じゃないか。街角でさらせば、いい金になるぞ」
 母親は泣いた。
「そんなことをしたら、この子があまりにも不憫じゃないか。あんたは私らの不幸を売って暮らそうって言うのかい」
「どうしてわしらが不幸なんだ。不幸ってのは金がないってことだ。金がなければ、この子を養うことだってできないじゃないか。この子が金を稼げば、この子自身が助かるってわけだ。それのどこが悪い」

 そうして父子は、街頭に立つようになった。
 街行く人々は、異形の赤児を見て目を剥いた。ある者はあわてて目をそらし、またある者はその場にくずおれた。
「哀れみを、どうか!」と父親は叫んだ。
「わしらには金がないんです。この子を養うのは、並大抵じゃあありませんぜ」

 金は集まった。
 一家を裕福にするほどではなかったが、少なくとも父母が働かなくても三人が食っていける程度には足りた。
「神様からの贈り物だ」と父親は、金勘定をしながら目を細めた。そんなとき母親は、金をつかんで家の外に投げようとしたが、まるで金が重すぎるみたいに力なく元に戻すのだった。

 ある日、修道服をまとった女が現れ、赤児の前にひざまずいて祈った。父親も、見よう見まねで祈る格好をしたが、薄目をあけて通行人の反応をうかがっているのだった。
 やがて長い祈りを終えた彼女が、この子を修道院で引き取らせてもらうわけにはいきませんか、と言った。
「馬鹿言っちゃいけませんぜ。この子はわしの子だ。わしらは神様に選ばれているんじゃないかね?」
 修道女は、神は私をここに導きました、この子が街で見世物にされていることが神の御心にかなっているとは思えません、と言った。
「あんたは間違っている。見世物っていうのは、そうされてる人間が不幸だって感じているときの言葉だ。この子を見な。あんたには分からんだろうが、これは、笑ってる顔だ。わしとこうして街に出て、腰を抜かす人間どもを見るのが好きなんだよ」
 修道女は、ああ、神の子が悪魔のふところに抱かれているとは、と叫んで去った。
「悪魔だと? そんなのは、おまえさんを修道院に閉じ込めた人間が作った言葉だろうな!」

 その後も、父子は街頭に立った。
 寄付金が途切れることはなかった。最初は目をそむけて去って行った人たちも、日を置いてから、まとまった金を置いていったりした。
「あいつらは」と、父親はにやにやしながら息子に言った。
「やっと自分のふところにある金が、何の役立つか悟ったのさ。わしらは、金持ちの良心を目覚めさせることだってできるらしいぞ。こいつにはまったく神様だってびっくりだ」

 またある日、立派な馬車が父子の前に停まった。中から燕尾服を着た紳士が降り立ち、父親の前に立って、この子を養子にしたい、謝礼は用意してある、と言い、執事を呼びよせた。
 革張りの鞄が開かれると、目もくらむほどの金貨が詰まっていた。
 どう少なく見積もっても、それは夫婦の一生を養って余りある金だった。
 父親は呆然とそれを見つめた。足ががたがた震え始めるのが分かった。しかし、やがてこう言った。
「ありがたいことで、旦那。しかし、この子はわしの子です。自分の子供を金と交換にはできませんで」
 紳士は、その返答があまりに意外で、しばらくこの男が何を言っているのか、意味が分からないくらいだった。しかし、やがて気を取り直し、残念な返事だ、失礼ながら、私ならこの子を今よりもずっと幸せにできるのに、と言った。
「そうかもしれませんが、旦那。少なくともそれじゃあ、わしは幸せになれませんで」と、父親は言った。
 馬車が去ると、父親は息子の横にへたり込んだ。
「何で、わしは……ああ、馬鹿なことをした!」
 そう言ってから大笑いし、息子の洟を親指でぬぐうと、すり切れたスボンの尻でふいた。

 ©新貝直人