風変わりな遺書

 以下が「彼」の自殺の現場に残されていた文面である。これを警視庁は遺書と認めず長く倉庫に保管していたが、内部流出により全文が明らかになった。弊誌はこれを遺書とみなし、故人の考えを公開することによって安楽死の是非について世間の洞察を得るべく、今回掲載することを決めた。

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事故死を除く死には、以下の4つの選択肢がある。

1. 自殺
2. 安楽死
3. 平穏死
4. 延命死

それぞれの意味は、以下の通りである。

1. 他人を介在させず自らを死に至らしめる
2. 医療行為が可能な他人の介在により自らを死に至らしめる
3. 医療により延命を図るが、苦痛の軽減が難しい場合には死を容認する
4. 医療による延命を最優先して最後の最後まで死を拒絶する

4は前時代的な「理想の死」で、この背景には「人生は苦痛に耐えるもの」という、嗜虐的な日本の風土がある。「闘病」という言葉は、この価値観を鮮やかに表現している。4はコストも苦痛も最大化するので、まさに「耐える」ためにある選択肢である。3は現代的で好ましいが、経済力のない人、経済支援のできる家族のない人には実現が難しい。

2の制度のない現在、3あるいは4を選べない人に残されているのは1だけである。1は苦痛を伴ったり、失敗して死に至らず障害者になる可能性がある。他人の目の届かないところで遂行するので、後処理など結果的にコストも2よりかかる場合が多い。1を選ぶしかない者の絶望は計り知れない。

2は、コストと苦痛を最小限にするという意味において、他の3つの選択肢のどれよりも優れている。社会がこれを認めれば、自殺や孤独死を減らすことに貢献するだろう。

死は避けられない。選択肢を増やし、社会的な負担を軽減するためにも、2の法制化が急務である。しかし、それを悠長に待っていられない私は、1を選んだ。

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©新貝直人