怪獣ポンケンゴン

 その犬がポンという名前だと人びとが知ったのは、首輪にそう書いてあったからです。首輪こそしていましたが、ポンは飼っていた人に知らない町で捨てられたのでした。ポンはおなかがすいていたので、町のあちこちで食べ物をさがしたけれど見つかりませんでした。しばらくすると、ポンの前を歩いていた人がジュースの缶を捨てました。道にこぼれたジュースの残りをなめていると、ポンはふと缶まで食べようかという気になりました。そして実際に食べてしまったのです。

 すると、ポンの体に異変が起こりました。毛がぬけおちて、皮膚はかたくなり、でこぼこして、それより何より、体全体がぐんぐんふくらんで、小型のバスくらいの大きさになってしまったのです。首輪ははじけとんで道に落ちました。

 通りがかった子供が、怪獣だ、とさけびました。その声におどろいて、思わずポンがほえると、金属をひっかいたような音が出ました。鳴いても、同じ音が出ました。それでも人なつこい、気のやさしい性格は元のままでした。ポン自身は自分の変化にすぐになれて、あくびをしました。飛んでいたムクドリが飲みこまれそうになって、あわててポンをよけました。

 ポンを見ると、人びとは最初はおどろいたけれど、悪さをしないと分かると、むしろずっと好きになりました。首輪をひろった人が言いました、あれはもとはポンって犬だったんだ、今じゃポンケンゴンだな。

 町の人たちは、ポンケンゴンにいろんな食べ物を持ち寄りました。ドッグフード、生きたままのニワトリ、バナナ、干し草。でもどんなにおいしそうな食べ物も、ポンケンゴンの興味をひかないのでした。ポンケンゴンは自分が本当に食べたいのが何か分かっていました。それは動物や人がふつう食べているようなものではなく、人が捨てるゴミだったのです。ポンケンゴンは町に落ちているゴミをかたっぱしから食べ始めました。

ビニール袋をパクッ。
煙草のすいがらをパクッ。
もちろん空き缶もパクッ。

 ポンケンゴンにエサをあげなくちゃ、と言って、家からわざわざゴミを持ってくる子供がいました。でもその子がゴミを手にもっているうちは、ポンケンゴンはそっぽを向いていました。その子が、ちぇっ、食べないや、と言ってゴミを地面に捨ててどこかへ行ってしまうと、すかさずパクッ、と食べました。なぜだか、ポンケンゴンは自分のために用意されたゴミは食べないのでした。また、ゴミ出しの日に出されたゴミも食べませんでした。ポンケンゴンの食欲をそそらせるのは、見捨てられたゴミ、どこにも行く当てのないゴミだったのです。そしておなかいっぱいになると、ポンケンゴンは大きなうんちをしました。それを見て人びとは思わずあとずさりしましたけれど、うんちはぜんぜんくさくなく、かえって土にまくといい肥料になることがわかりました。

 町の人たちは、ゴミもかたづいて、肥料もとれるようになって良かったと喜びました。でも本当は、ゴミはたいしてかたづいていなかったのです。ポンケンゴンが食べても食べても追いつかないくらいに、もっともっとゴミは捨てられたのです。

 そうして半年あまりがたったころ、ポンケンゴンの食欲はおとろえはじめました。だんだんゴミを食べるのが苦しくなって、ついには全然食べられなくなりました。ある朝、町の人たちは、ポンケンゴンが公園の木の下で死んでいるのを見つけました。獣医さんが呼ばれてやってきて、ゴミによる中毒だと言いました。町の人たちは大きな大きな穴を掘って、ポンケンゴンを埋めました。子供たちはみんな泣きました。大人たちだって泣いたのです。誰かが言いました、あれはまたポンになって生まれ変わるさ。

©新貝直人