あかいボール

 カモのすから、たまごがひとつぬすまれました。

 ヘビが、ぬすんだたまごをたべようとしたところ、コツンとおとがしました。
 おや?
 ヘビがみていると、たまごからかわいいくちばしがでたのです。しめしめ、きょうはごちそうだ、とヘビがなかからヒナがでてくるのをいまかいまかとまっていると、そらからなにかがおちてきました。とっさにヘビは、くさむらにかくれました。そこへにんげんのこどもがやってきたので、ヘビはあわててにげていきました。

「このへんだったと、おもうんだけどな」
 おんなのこはあたりをみまわしました。けれど、いくらさがしても、あかいボールはしげみにかくれてみつかりません。
「おーい」
 おんなのこのおとうさんがさけびました。
「そこはかわのちかくだぞ。おちるといけないからもどっといで」
 おんなのこはボールをあきらめてかけもどりました。

 それからしばらくすると、ようやくヒナがたまごからうまれでてきました。すると、すぐとなりにあかいボールがありました。 
「おかあさん!」
 ヒナはすっかりボールをおかあさんだとおもって、からだをすりよせました。するとボールはころがって、かわにとぷんとおちたのです。
「まって! おかあさん」
 ヒナはかわにとびこんで、あかいボールをおいかけました。ボールはぷかぷかうかんで、
そのうちにうずにのって、ぐるぐるまわりはじめました。
「へんなの! でも、おもしろいや」
 ヒナはボールのあとにつづいてぐるぐるおよぎました。
「ぼく、もうつかれたよ」
 やがてヒナはこういいましたが、ボールはうずにのったままです。
「もう、おしまいだったら!」
 ヒナはまるいくちばしであかいボールをつついてきしにおしあげました。

 ヒナとボールがやすんでいると、こんどはふたりのおとこのこがやってきました。
「おい。なんかのヒナがいるぞ」
「なんでボールとならんでるんだろう」
 ひとりがうしろからそっとてをのばし、あかいボールをもちあげました。ヒナはびっくりしてふりかえりました。
「おかあさん! おかあさんをはなして!」
 おとこのこはボールをもとにもどしていいました。
「ヒナがなんか、さわいだね」
「どういうことなの?」
 もうひとりのこもくびをかしげます。おとこのこはボールをゆびではじいて、じめんにころがしてみました。
「まって。おかあさん!」
 ヒナはあかいボールをおいかけて、すぐにまたよりそいました。
「わかった!」
 もうひとりのこがいいました。
「このヒナはボールのことを、かぞくだとおもってるんだ!」
「へぇー。ばかなヒナ!」
 ふたりはいっしょにわらいました。
「かぞくがぺちゃんこになっても、まだかぞくだとおもうかな」
 おとこのこのひとりがそうききました。
「さあ」
 もうひとりのこはちいさなこえでこたえました。
「ためしてみよう」
 おとこのこはバッジをはずして、ピンをあかいボールにつきさしました。するとボールは、
しゅうっ、とおとをたてて、しぼんでしまいました。
「おかあさん!」
 ヒナはあわててつついたり、くびをすりつけたりしましたが、あかいボールはしぼんだまま
うごきません。
「おかあさん! おかあさん!」
 おとこのこはヒナがないているのをみて、またわらいました。
「まぁだ、かぞくだとおもってるよ!」
 もうひとりのこはなんだか、へんじができませんでした。
「ねえ! ゲームのつづきやるって、やくそくだったよ!」
 もうひとりのこはきゅうにおもいついて、そういいました。
「そうだ、ぼくのばんからだったね!」
 そうしてふたりは、はしりさっていきました。

 ヒナはしぼんだあかいボールによりそって、ゆうやけのかわをみていました。
「けしきのいろがかわったね。だんだんくらくなるんだね。ぼく、こわいや」
 つよいかぜがふきつけて、しぼんだボールをゆらしました。
「ぼく、ねむくなっちゃった」
 ヒナはしぼんだボールによりかかって、うとうとねむりはじめました。

「このへんだったと、おもうんだけどな」
 かいちゅうでんとうのあかりがきしべをてらしました。
「あ、いたよ! つぶれたボールといっしょにねてる」
「どれどれ。ふぅん、なるほど。こんなことってあるんだね。おこさないようにきをつけて」
 おとうさんはあかいボールをそっとひろいあげ、おとこのこはボールのかわりに、ヒナのからだをてのひらでささえました。ヒナはぐっすりねむったままです。
 おとうさんはボールにあいたあなをすばやくゴムきれとせっちゃくざいでふさいで、くうきをいれました。ボールがぽんぽんにふくらむと、おとこのこはにっこりわらいました。

 あさひがかわをてらすと、ヒナはめをさましました。
「おかあさん! もとにもどったんだね!」
 あかいボールのそこにはくろいゴムのはしきれがついていたけれど、ふっくらとふくらんでいました。
「きょうはなにをしようね。ぼく、とぶれんしゅうがしたいな」
 ヒナはそういって、ちいさなつばさをパタパタふってみせました。
「おかあさんをせなかにのせて、いつかそらをとぶんだ!」
 みあげると、そらはたかく、はてしなく、どこまでもあおいのです。
 ヒナはからだをぶるっとふるわせて、もういちどあかいボールによりそうのでした。

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