バッテンは、じぶんのかたちにぴったりのあなをさがしています。みんなぴったりのあなにしあわせにおさまっている。ちょっとかたちのちがうひともいるけれど、なんとかおさまっている。でもバッテンにはみつかりません。
「どこにあるの?」
「しらないよ」
「ぴったりのあながないひとはどこにいけばいいの?」
「このさきに、きみみたいなひとのためのあながあるらしいよ」
バッテンはあるいていきました。ずいぶんとおいところです。それは、いっこのおおきなあなで、あなのそこにはバッテンとおなじような、へんてこなかたちのひとたちがたくさんたおれていました。
バッテンは、あなのうえからこえをかけました。
「ここがぼくのあななの?」
「そのようだね、ざんねんだけど。きみもずいぶんへんてこなかたちだからね」
「でもぼくはじぶんにぴったりのあなをさがしているんです」
「ぴったりのあなのないひとは、ここにじぶんをすてるんだよ」
「ぼくは…もうすこしさがすよ」
バッテンはまたあるきだしました。たくさんたくさんあるきました。でもあなはみつかりません。いけでバッテンはみずにうつるじぶんをみました。
「こんなへんてこなあななんかあるわけないや」
なみだで、じめんにじぶんのかたちをかきました。
「こんなかたちのあながどこかにあればいいのに」
そのとき、バッテンはひらめきました。
「ないなら、ぼくがつくればいい」
バッテンはやまのしゃめんのかたいじめんをすこしずつけずりました。てがぼろぼろになってもほりつづけました。そしてとうとうじぶんにぴったりのあなをつくったのです。
「ああ、しあわせだ」
バッテンはあなにぴったりおさまってねむりました。
めがさめるとなぜだかおちつかないきぶんです。
「そうだ! まだやらなきゃいけないことがある」
バッテンは、おおきなあなのそこにいるひとたちのところにもどりました。
「きみたちにぴったりのあなをみつけたよ!」
みんながあなからでてきて、バッテンについていきました。
「ここだよ!」
けれど、そこはただのやまはだで、あるのはバッテンのあなひとつきりです。バッテンはやまのしゃめんに、みんなのへんてこなかたちをつぎつぎにかいていきました。
「じぶんでほればいいのさ! てつだうよ!」
なんにちもかかって、ぜんいんがじぶんにぴったりのあなをほりおえました。
へんてこなかたちのひとのためのへんてこなあな、あな、あな。
みんながぴったりそれぞれのあなにおさまると、バッテンはこんどこそ、ほんとうにしあわせなきもちでぐっすりねむりました。
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