爆発音と共に、不意に機体が大きく揺れた。
一人の男がとりすました顔つきで小さなケースを開け、拳銃を取り出した。そして、何が起こったのかを知ってる、唯一の人間らしく、躊躇なく自らの側頭に向けて引き金を引いた。
爆発音と発砲音、そして窓に飛び散った血とくずおれた男。それらが何を意味するのか、隣席の男はすぐに理解した。墜落までの恐怖を、このテロリストは手品のように消し去ってみせたのだ。
拳銃は彼の手に握られたままだった。
隣席の男はその指を開いて拳銃を奪うと、優秀な学習者のように先人の行為を繰り返した。
二度の銃声で、乗客の多くが今起こっている事態が不可避なのだと悟った。飛行機が上下に激しく揺れ始め、拳銃が二人目の自殺者の手から落ちて、床を滑っていった。
それに、乗客は殺到した。拳銃は小さく、もう幾らも弾が残っていないのは明らかだった。
©新貝直人