国とは、みんなにお金を配るための仕組み 2 〜デジタル・ベーシック・インカムという考え

ベーシック・インカムを実現するには、従来の税制や再分配の仕組みをすべて刷新する必要があります。そうすると、これまでのやり方で利益を独占してきた「えらい」人たちの都合が悪くなることがたくさん起こるでしょう。しかし、どうして「えらい」人の現状を守らなければいけないのでしょうか。

多くの「えらい」人というのは、たとえば自分の腕にはめている高価な腕時計のネジひとつ作ることもできません。立派な車に乗ってはいてもアスファルトを敷くことも、橋をかけることもできません。ネジをつくったり、道路を作ったり、橋を渡したり、水道を引いたり、食べ物をつくったりしているのは、すべて庶民なのです。庶民がいなければ「えらい」人の多くは、ただの無能の人になるでしょう。彼らの成功は庶民の成し遂げたことの土台の上に成り立っている。だから「えらい」人には、庶民を守る世の中をつくる義務があるのです。

とはいえ「えらい」人を動かすのは容易ではありません。ベーシック・インカムを実現するために、彼らをどう説得するか、は非常に重要です。彼らがこり固まった先入観から現実のお金を出せないというのなら、仮想のお金ではどうでしょう。

僕は、リアル・マネーでベーシック・インカムを実現できるように制度を見直すことが大切だと考えますが、現代の技術を利用してデジタル通貨を取りかかりにしてもいいと最近考えるようになりました。これを発行するのは中央銀行になります。オンライン上のみで存在するデジタル通貨なので、紙幣を刷るのに比べると費用はほとんどかかりません。振込手数料などの経費も不要です。配布はスマートフォンなどのデバイスで行います。毎月スマートフォンに、政府公認のデジタル通貨がたとえば一人あたり10万円無条件で振り込まれる世の中を想像してください。貧困のほとんどはこれで解消されるはずです。政府が災害や疫病など個人への補償で、場当たり的で見当違いな対応をすることもなくなります。

懸念のひとつはインフレでしょう。インフレにならないように、中央銀行はこのデジタル・マネーの発行額を微調整する必要があります。導入直後はインフレへの影響を確認するために1万円程度の少額から始めればいいと思います。

スマートフォンを持っていない人たちへの対応も求められます。クレジットカードの使用と同程度に、簡単で、持ち運びやすく、視認性に優れたデバイスの開発が必要です。また、このデバイスに身分証としての役割を付加できれば、いろんな場面で役立つかもしれません。たとえば、行方不明になった老人の居場所を特定したり、独居している老人のデバイスへのログイン履歴が不自然に途切れた場合には救急車を手配したり、あるいは、災害時に危険な地区から避難所へ住人を誘導したりもできるでしょう。

基本的にベーシック・インカムというのは「個人のお金の使い道について政府は口出ししない」ことが前提です。しかし、このデジタル・ベーシック・インカムでは用途を制限することも容易にできます。嗜好品や趣味性の高いものを用途から除外することには議論があるでしょうが、まずは導入障壁を低くするために、生活必需品・医療・住宅・水道光熱費・通信費などに限定してもいいかもしれません。

また、このデジタル・ベーシック・インカムでは消費期限を設けることも可能です。たとえば消費期限を1ヶ月に設定した場合では、前月の残り分を貯金することはできず、それは中央銀行に回収されるようにします。そうすると、みなさん支給された額を使い切ろうとするでしょうから、経済が回るようになる。また、デジタル・マネーなど必要ないというお金持ちであれば、国の健全な財政のためにわざとこれを使わないという選択もできます。いずれにしても消費期限はデジタル・マネー発行量を制御するでしょうから、インフレへの事前対策として有用だと言えるでしょう。

ベーシック・インカムは「人は平等である」ことを資本主義経済上で示すことのできる先進的な考えです。格差社会は「えらい人」という、とても不愉快な生き物を作り出しました。しかし、この「えらい」というのがそもそも実態ではなく、仮想のようなものなのです。ベーシック・インカム制度は、この不愉快な仮想社会を切り崩すことのできる優れた仕組みです。デジタル(仮想)マネーがそれを行うとすれば、皮肉がきいていて面白いな、と思いませんか。